八味地黄丸

 嘘か真か、徳川家康が愛用していたと言われるほどの薬剤で臨床でも大活躍する八味丸を考察していきたい。

 泌尿器科領域でも用いられることが多いが、効果がある場合と効果がない場合が当然見受けられる。生薬から考察することで、何故八味丸だけでは効果が乏しいかが見えてきた気がする。

 興味がある方はどうぞ。

  • 八味地黄丸の出典
 
後漢時代の名医・張仲景著『金匱要略』
 
  • 原典
 
金匱要略 虚労病篇』:虚労、腰痛、 小腹拘急し、小便利せざる者は、八味地黄丸、之を主る。
 
*虚労は:心身が虚している状態
*拘急:筋肉の引き攣れ
 
『金匱要略 消喝病篇』:男子消喝、小便反って多く、飲むこと一斗をもって小便一斗なるは、腎気丸之を主る。
 
*消喝:口渇がひどく多量の水を飲む。(現代では糖尿病の症状)
 
・『金匱要略 痰飲病篇』:夫れ短気(息切れ)、微飲あるは、当に小便より之を去るべし。苓桂朮甘湯之を主る。腎気丸もまた之を主る
 
・『金匱要略 婦人雑病篇』:此れ転胞と名づく。溺(尿)するを得ざるなり。胞系了戻するを以ての故に此病を致す。但小便利すれば則ち癒ゆ。腎気丸を主る宜し。
 
*転胞(でんぽう)とは、妊婦の尿閉をいう。中気不足と関係があるこどが多い。
*胞系了戻(ぼうけいりょうれい)とは、膀胱や尿道の働きが乱れている状態
 
 
  • 症状
 
全身の冷え、元気がない、足腰の弱り、倦怠感、痛み、浮腫。多尿や乏尿、排尿困難、夜間頻尿、残尿感、前立腺肥大症も腎気不足である。
舌:淡白で滑苔
脈:沈で特に尺脈が弱い
腹:下腹部の中央が特に軟弱、下腹部の知覚鈍麻や小腹不仁や小腹拘急
 
  • 適応症
腎臓の虚証、腎気虚証、腎陽虚証
 
 
  • 腎臓の生理機能
・蔵精:成長発育、生殖機能を司る
    腎は先天の本
 
・水を主る:腎臓と膀胱は互いにペア、膀胱の機能も司る
 
・納気を司る。肺が吸入した気を体の内部に引き入れる
 
・骨、髄、脳、歯、髪を養い、耳。生殖器と肛門を司る
 
 
  • 八味地黄丸の構成生薬
 
三補:熟地黄、山茱萸、山薬
三瀉:澤瀉、牡丹皮、茯苓
温補:桂皮、附子
 
 
  • 各生薬の四気五味と効能
 
熟地黄
・性味:温性、甘味
・効能:滋陰養血、益精 填髄
 
山茱萸
・性味:微温性、酸渋味
・機能:温益肝腎、渋精縮尿、固経止血、収斂固脱
 
山薬
・性味:平性、甘味。
・機能:補脾養胃、生津益肺、補腎渋精
 
澤瀉
・性味:寒性、甘味
・効能:利水、瀉熱
 
茯苓
・性味:平性、甘、淡味
・効能:利水除湿、健脾寧心
 
牡丹皮
・性味:微寒性、苦、辛味
・効能:清熱涼血、活血化瘀
 
附子
・性味:大熱性、辛、甘味
・効能:回陽救逆、温陽散寒
 
桂皮
・性味:熱性、辛、甘味
・効能:補陽散寒、止痛
 
 
  • 各生薬の組成
三補(59%):熟地黄(29%)、山茱萸(15%)、山薬(15%)
三瀉(33%):澤瀉(11%)、牡丹皮(11%)、茯苓(11%)
温補(8%):桂皮(4%)、附子(4%)
 
 
  • 組成分析
①補腎陰の熟地黄、山茱萸、と山薬は用量が多いが(59%)、三種類しかない。
②附子と桂皮は温熱性、補腎陽の効能で用量が少ない(8%)。
③補陰の熟地黄、山茱萸と補陽の附子、桂皮と一緒に使う。
④利尿作用を持つ茯苓、澤瀉と、収斂作用の山茱萸、山薬と一緒に使う
⑤寒性の牡丹皮と温性の附子、桂皮と一緒に使う
 
①より、補腎できるが、力はそんなに強くない。
②⑤より、温熱性があるが、ほどほど。
③より、補陰も補陽もできる。
④より、腎気虚証に使えるが、主に尿のトラブル(尿漏れや尿困難)に使える
 
  • どんな人に使えるか
①程度が相対的に軽い腎虚証
②特に、腎気虚による尿のトラブル。
③腎陽虚による冷え性
④腎の陰陽両虚証にも使える
⑤高齢者、基礎疾患のある方
 
 
  • 使用上の注意:胃腸の弱い人に慎重投与
・熟地黄が胃腸の機能を阻害する性質あり。
・胃腸の状態を観ながら、服用を判断する
 
*下痢をしやすい人の中には、腎虚による場合もあり特に早朝の下痢、手足の温度が低く、腰腹部冷痛などの場合には、用いてもよい
 
 
参考:
1. Youtube 中医学の視点から市販の漢方を選ぼう
2. 鹿島雅之 先生 著 『医学生のための漢方医学講座』
3. 高山宏世 先生 著『腹証図解 漢方常用処方解説』

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